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よくわかる相続・税金のしくみ

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税務訴訟では黙秘権は保障されない・生前贈与の証明についての補遺

更新日:2018年05月30日

相続人側の生前贈与の主張の必要性

 以前、相続税との関係で、生前贈与の証明についてお話しました。相続税法の適用上、故人からの贈与がなかったので、「相続・・・により財産を取得した」という事実を税務署が証明しなければならず、通常、その立証は困難であるという説明をしました。

 しかし、私は、どういう事案でも訴訟において相続人が有利であるというつもりはありません。というのは、税務訴訟においては、刑事訴訟における被告人と同じ程度に相続人が有利というわけではないからです。

 「租税法(行政法)は、刑事法と同じく侵害法規だから、刑事訴訟法の手続が適用される」というのは、誰か言っていそうなことで、実は、誰も言っていないことです。税務訴訟には黙秘権の保障はありません。つまり、相続人が争点について黙っていることを理由に相続人に不利益な事実があったと推認しても法令違反はないということです。

   具体的には、相続人の側で贈与の事実に関する具体的な主張ができないことは、贈与の事実がなかったことを推認させる間接証拠とされる可能性があります。

 したがって、相続人側は、贈与の具体的な主張ができなければ訴訟で負けやすくなるといえます。

黙秘権の保障は政策的な保障

   そもそも、黙秘権の保障自体、自明のことではありません。

   刑事訴訟は、犯罪を構成する要件事実の認定をする手続きです。現行の法定手続を離れて考えたとき、現場にいた被告人が具体的な反論ができないという事実は、被告人に不利益な事実が起こったことを推認させる一定の力(証拠価値)は持っているものです。

   しかし、黙秘したことによる推認力が決して強くはないことや、歴史の試行錯誤のなかで、誤認定の際の不利益が事後的には償いきれないものと社会通念で評価されるようになった結果、国民の幸福を最大化するという功利主義の観点から、あえて政策的に証拠能力を否定するよう選択されてきたというだけのことです。黙秘の事実に証拠価値がある事実まで否定することはできないと思います。

再間接事実としての黙秘の事実

 このことは、生前贈与の有無が争点になる税務訴訟でも同じことです。相続人は贈与の現場にたちあった当事者のはずです。その当事者が、贈与の具体的なやりとり、日にち、金額を説明できないということはそのような事実はなかったことを推認させる一定の力があります。そうして、税務訴訟には黙秘権の保障(黙秘したこと自体を不利益な事実認定の証拠に使われない利益)はないのです。

 したがって、「相続・・・により財産を取得」したという要件事実を推認させる「贈与がなかった」という間接事実を推認させる再間接事実として、相続人が贈与の存在について具体的な主張ができないことは裁判官の認定の根拠として使われうるのです。

 具体的には、裁判官は、「Aという事実、Bという事実及び贈与の当事者である原告(相続人)が訴訟において具体的な主張をしていないことにかんがみれば、贈与がなかったものと推認するのが相当である。」というような言い回しができるわけです。

名義預金の立証も同じです

   また、以前、名義預金(預金の帰属者)の認定について、①出捐者、②通帳・届出印の管理状況、③贈与の有無等の諸事情を総合考慮して判断すると説明しました。名義預金は被相続人に帰属するので、「相続・・・により財産を取得」したという事実を税務署が証明しなければならないということも説明しました。

 ここでも、贈与の事実の不存在が間接事実になっていますが、この点の証明についても、上で述べたとおり、相続人が具体的な主張ができないことは認定の根拠にできるわけです。

立証を見すえたアドバイス・調査を期待します

 相続税の申告で、贈与が争点になる事案について、従来の税理士の対応は極端であったと思います。ある一人の税理士の対応を通観すると、すべての事案で税務署の言いなりになるか、すべての事案で納税者に黙秘を勧めてきたように見受けられます。

   その理由は、証明責任や証明の意義・程度が理解できていないことによるものだと思います。税理士も法律家でなければならないと言われて久しいですが、このことを真摯に受けとめている税理士は少ないように思われます。

 税理士は、相続税の申告にあたり、依頼者から贈与の有無に関係する事実を聴きとり、訴訟でどうなるのか検討・説明したうえで、対応を勧めるべきです。生前贈与の具体的な主張が聴きとれない事案であれば、それが訴訟では不利益に働くことを理解してもらうべきです。訴訟にかかる費用や加算税は依頼者のためになりません。

 一方で、税務署員の方にも理解してほしいのは、贈与の不存在は立証がまったく不可能ではないので、贈与について抽象的な主張だけで具体的な主張のない事案は処分すべきということです。相続税の申告で、あつかましい事案はたしかにあります。税務署員としては、最終的に判断をする税務署長及び訴訟を担当する訟務検事を説得する材料として、調査段階で陳述書をとるときには、調査の時点で贈与について具体的な主張がなかったことも証拠化しておくなど、工夫をすべきでしょう。

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