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よくわかる相続・税金のしくみ

よくわかる相続・税金のしくみ

相続法改正・配偶者の長期居住権の創設

更新日:2018年12月09日

配偶者の長期居住権の創設

(1)改正理由

 通常、遺産分けでは、自宅の建物・敷地は残された配偶者が相続します。なのに、なぜ、配偶者の長期居住権なんて新しい権利を作ったんでしょうか。

 実は、これもまた、例外的なケースを想定しているんです。たとえば、相続人が、前妻の子と後妻といった遠慮会釈のないケースです。そして、想定されている財産構成は、自宅不動産以外に、預金が少ないケースなんです。

 後妻は住み慣れた自宅を終の棲家にしたいでしょ。それで、自宅とその敷地を使いたいわけ。でも、不動産って結構な評価額になるでしょ。かりに、建物500万円、敷地1000万円として、合計1500万円です。預金が少ない事案では、自宅の建物と敷地を相続すれば、後妻の相続分2分の1をすぐにこえてしまう。それで、預金が相続できないということも起こりうるんです。

 そうすると、このあと、後妻はどうやって生活すればいいんですか。だいたい夫の財産で生きてきたんでしょ。自分の預金なんてほとんどない。

 後妻としては、自宅の建物と敷地を相続して、死ぬまでただで利用できても、今度は生活費がなくなるんですよ。

 そういう事情がある家庭の相続で、後妻を守ろうというのがこの権利をつくった改正理由です。自宅の居住権だけなら、建物や土地の所有権は取得しなくていい。居住権は利用権だから評価自体安くすむ。2分の1の相続分がまだ残るというわけで、預金もいくらかもらえるという算段です。

(2)内容・要件

 配偶者の長期居住権の内容ですが、原則、死ぬまでの間、自宅の建物を無償で使用・収益できます。もっとも、居住権はだれかに譲渡はできません。

 居住権取得の要件ですが、まず、被相続人が亡くなった時点で配偶者が相続財産に居住していたことが必要です。そのうえで、遺産分割協議で、長期居住権を取得すると合意することが必要です。または、遺言で、居住権が遺贈されることが必要です。

 で、使用に伴う費用分担ですが、使用収益にかかる通常の必要費は、配偶者もちです。建物の固定資産税などですね。

 では、土地の固定資産税はどうなるのでしょうか。法律上は、建物使用権は、必要な範囲で土地も使用できると理解される。そうだとすると、土地の固定資産税も通常の必要費にあたるものとして配偶者もちと判断されるでしょうね。

 これに対して、原則、特別の必要費は所有者負担です(台風の被害の修繕など)。有益費(建物の価値を増加させる出費)も所有者負担とされています。

(3)注意点

家庭裁判所の審判で決まる

 さて、気になるのは、遺産分けで決まるのかということ。想定されているのは、典型的には、仲が悪いケースです。遺産分けで、前妻の子が、後妻の居住権を素直に認めてくれるかどうか。前妻の子としては、十数年も使用収益のできない不動産でしょ、後妻からの賃料もないんでしょ。そんな不動産いらないですよね。預金がたくさんほしいというでしょ。だから、おそらく遺産分けでは決まらないと思うんです。

 そこで、最終的な解決は、家庭裁判所の調停・審判です。裁判所も、こういう制度があれば、後妻の意向に従い、そういう内容の調停案・審判をだせますよね。今回の改正では、裁判所が配偶者に終身居住権を与える判断をできるようにしてあります(新法1029条)。

バリアフリー化費用の有益費該当性・対応策

 さて、原則、所有者負担とされる有益費ですよ。建物の価値を増加させる出費、といわれてもイメージできませんよね。それもそのはずです。弁護士だってわからないんです。これだけでも一大争点です。

 たとえば、配偶者が勝手に行ったバリアフリー化の費用はどうなるんでしょうか?手すりをつける、段差をなくす、風呂のユニットもまるごと変える。ガスは危ないからオール電化だ。500万円くらいすぐにいくでしょ。それで、後日、前妻の子のところに、通知が来るんです。「建物の価値を増加させた。立て替えといたから払ってね、後妻より」と。

 (以下詳細は割愛します。セミナーでお話します。)

登記により第三者に主張可能

 配偶者居住権ですが、基本的には、相続人間で設定される賃貸借に似た債権関係です。ですから、建物取得者が建物を譲渡してしまった場合には、譲受人は配偶者に対して退去を請求できてしまう。

 そこで、今回の改正では、建物の登記簿に配偶者の居住権を登録できるようにしました。登記簿に登録しておけば、万一、第三者に建物を譲渡されても居座ることができるので安心です。

 配偶者居住権の登記は、共同申請です。登記には、建物取得者の実印が必要です。遺産分割協議で話し合いがまとまらないときは裁判所で審判か判決をとらなければなりません。

 遺産分割ではなく、遺言で遺贈するときも注意が必要です。遺贈を原因とする登記は共同申請ですから、他の相続人の実印が必要です。ですから、配偶者本人か中立的な人間を遺言執行者に指定しておかないと面倒なことになります。

相続分計算上の評価の問題

 一応、良さそうな制度ですが、この配偶者居住権は、難点もあります。それは、居住権という権利の評価方法です。

 そもそも、建物と敷地を相続すれば軽く数千万円は相続したことになる。これでは、評価が高すぎて、預金が相続できなくなる。そこで、評価の低い居住権を相続させる方法を考えたわけでしょ。

 だから、遺産分けでも、一定の財産評価をしなければならない。その評価方法が問題なんです。法制審議会が提案している評価方法は添付資料2です。・・・という具合です。意味わかりますか?これは、一般人が計算しやすいようにという親心で提案しているものだそうです。ちょっと意味わかりませんよね。

 まず、建物の現在の評価額を見るでしょ、それで、後妻が亡くなる未来の評価額を見に行って、そうして、今度は、ライプニッツ係数を使ってまた現在に戻ってくる。・・・。お前はタイムトラベラーか?(笑)

 なんで、こういう複雑なものを提案するのか、わかりません。そりゃ、いろんなケースの間で精密で公平な処理ができるでしょうよ。でも、国民は自分で具体的相続分を計算できないよね。ライプニッツ係数って、この単語の時点でやる気が失せます。

 定期借地権の計算でもそうですが、なんで公務員はきめ細かさを偏重するのか。失う利益が大きければ、きめ細かさも有害ですよ。きめ細かさ馬鹿というんです。シンプルじゃない制度、だれも使いません。もっと別のことに気を遣えよ。

 法定の賃貸借類似の制度なんでしょ。財産評価基本通達と同じく、借家権は、原則、建物の30%評価でいいじゃないですか。事案と事案の間の多少の評価の不公平はあるでしょうが、得られる利益に比べて害は小さいですよ。この権利の活用が促進され配偶者が助かること、遺産分割における具体的相続分の計算が簡単になること、相続税法上の評価と整合性がつくこと、国民・裁判所・税務署含めた、幸せを生まない法務・税務コストが減ること、様々な利益があるんです。

 この評価方法、まだ案ですから、これから実務から不満が出て迷走しそうです。

相続税法上の問題点

 相続税法では、以下の点が争点になります。

 ①相続税の計算上、配偶者居住権をどのように評価するのか

 配偶者の課税価格をどう評価するのか。これは、今、国税庁でも検討をしているでしょうが、確定した見解はありません。

 やがて、税理士も、相続分計算上の仕組みをまねて、ライプニッツ号に乗ってタイムトラベルするんでしょうか?わたしは運転したくないですね(笑)。

 現行の財産評価基本通達では、貸家の評価は固定資産税評価額の70%です。借家権は相続税法上評価はしないけど、30%評価されているようなものです。それでいいじゃないですか。

 かりに、もう少し事案に応じて精密にやりたいのなら、たとえば、配偶者の生存予測年数に応じて、30%、40%、50%と評価を変えれば公平で明快な評価になりますよね。そうすれば、ライプニッツ号なんてじゃじゃ馬、運転しなくていいじゃないですか。知性は、無駄を省くことに使うべきです。

 ②相続税の計算上、自宅の敷地の評価は貸家建付地として評価できるのか

 これも、はっきりした見解はありません。

 配偶者の長期居住権が賃貸借類似の法定債権だとすると、借家やアパートと同じように、自宅の敷地は貸家建付地として評価するのが自然だと思えます。だって、住人の立ち退きにコストがかかる、それで土地・建物の交換価値をそのままでは享受できないというのが土地・建物の減額の理由でしょ。同じだからです。しかも、賃料なんてもらえないんでしょ。所有者にとっては災害ですよ。国のせいなんだから、評価くらい減らしてなぐさめないといけないと思います。

 で、平仄を合わせて、後妻の課税価格に、貸家建付地の約15%減額分を上乗せするのが妥当だと思います。

 ③後妻が死んだときに前妻の子に相続税・所得税はかかるのか?

 後妻が死ねば、交換価値を阻害する原因、配偶者居住権(及び貸家建付地の評価減)が消滅します。だから、実態としては経済的利益の移転(幸せの増加)はあります。これを税法上どうするか。認識するのか。今は、まだ、だれも教えてくれない。

 現状、借家人が出て行ったとき、所得税で不動産収益を認識しますか。しません。贈与は認識しますか。しません。これと同じように、居住権の消滅による建物所有者の利得をないものと扱うのもひとつだと思えます。こうすると、後妻の相続では、前妻の子は、みなし遺贈や贈与、一時所得などの理由で税金を支払う必要はなさそうです。

 しかし、現状の借家人の退去と違うのは、居住の権利の設定時に、損失も計上していることです。相続税の計算では、前妻の子の課税価格として、建物の評価減らすんでしょ。得してますよね。ライプニッツ号なのか30%なのかは別にして。そうすると、権利が消えたときに、それに見合った利得を認識するのが衡平じゃないかとも思える。

 これは、本当に難しいところです。最後は、経済的利得の移転を放置すると課税上の不公平が著しいのか、そこまでとはいえないのか、で決まる事柄だと思います。

 わたしの推測は、課税を見逃してもいいんじゃないかというものです。所詮、建物の固定資産税評価額なんて、通常、高くても1000万円ですよ。かりにその30%が居住権評価だとして300万円です。それを前妻の子が取得する課税価格として、そこに10%、20%の相続税率、贈与税率で課税したって、30万円や60万円ですよ。一時所得なら、50万円ひいて2分の1が所得ですから、たいした税金にはならない。これだけのわずかな税金のために、税務行政を動かすんですか。コストがかかりすぎですよ。

 また、前妻の子にしたって、後妻の遺産の全体資料について、後妻の相続人である兄弟姉妹たちと通常共有できませんよね。前妻の子に申告を求めるのは無理を強いるようなものです。

 そういうことを考えれば、通常、課税上の弊害は著しくない、原則として、課税は見逃されるとわたしは推測しています。

 ただ、5000万円の評価もする高額の自宅などの事案では、課税上の不公平が著しいといえる場合がでてくる可能性が残ります。そこで、たとえば、通達で、「固定資産税評価額3000万円を超えない建物に設定された配偶者居住権の消滅については、課税上の弊害がない限り、当面、課税価格に計上しなくて差し支えないものとする」などと定める運用が現実的かなと思います。

 なんにせよ、国税庁・裁判所がどういう解釈・判断をしていくのか注意が必要です。

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